※朝チュン(死語)

 

 

弛んだシーツと黒髪

 




 閉じられたカーテンからかすかに朝日が差し込む。その淡い光に薄目を開いて時間を確認すると、時計の針は目覚めていてもおかしくはない時刻を示していた。
 ぬくもりを感じて隣を見れば、まだ深い眠りにつく熟睡した彼女が横たわっていた。いつもならこの時間帯はすでに起きている彼女だが、今は軽く肩を揺らしても起きる気配など全く感じられない。
 ――昨日無理させすぎたか……
 美容師ということもあり祝日くらいにしか合わない休みが久しぶりに重なったことで、夜更けまで抱いてしまったことが尾を引いているのだろう。全く、がっつきすぎだろう俺。
 はー……と頭を抱えて彼女への申し訳なさと相変わらずの余裕のなさに対する自己嫌悪に陥っていると、彼女がかすかに身じろきした。

 下着のみを軽く身に着けただけの身体を見れば、白い肌に紅がちらほらと目立つ。
 起きたら絶対に怒られるだろうな。身体は大丈夫だろうか。痛くはなかっただろうか。
 真っ白なシーツに広がるみだれた長い黒髪に手を伸ばしながら、俺は彼女が目覚めるのを静かに待ち続けた。

 果たして、約10分後に彼女は瞼を開けた。腹這いの状態で両肘をベッドに立てつつ頭を起こし、目元をこすって俺を見つめる。
「……おはよ……」
「はよ。身体きつくない?」
「大丈夫……今何時……?」
「9時前」
 そっか……と言いつつ再び枕へ頭を預ける。そろそろ起きなきゃね。とろんとした目を瞬かせながらふにゃりと微笑む彼女に熱が帯びようとするのをなんとかやり過ごすため、つい、と目をそらした。それでも彼女の黒髪から手を放すのはなんとなく名残惜しく感じてしまい、艶やかさを確かめるようになで続ける。
 一方の彼女は「えへへ」と顔をほころばせながら身に着けているTシャツの袖を軽くつかんだ。その様子が無性にたまらなくなって、彼女の細い腰へと腕を伸ばしゆるりと引き寄せた。
 もう少しだけ、ゆっくりしたい。せっかくの休みなんだし。
 

 重い体を無理やり引きはがすようにしてベッドから降りた彼女は、布団の上に脱ぎ散らかしていた服を着てカーテンを開け放した。今日は快晴のようで、窓の外は透き通った青空がどこまでも広がっている。
 洗濯物がよく乾きそうだね、と未だベッドでごろごろしている俺に、彼女はいつもと変わらない笑顔を向けた。


 互いでぐちゃぐちゃにしたシーツをきれいに洗ったら、また二人で汚してしまおう。

 そうして何度でも一緒に使えばいい。