呼び出しか。
 「今朝手紙をもらった」とかったるそうに言っていたことを思い出し、ため息を飲み込む。授業終了後、早々に席を立った隣の席の彼は、きっと今頃かわいい子から告白されていることだろう。

『鈴木さんは清水くんと仲いいから羨ましいよ』
『同じ部活なんでしょ。もっと積極的にアピールしてさっさと告っちゃえばいいのに』
 ――そんな勇気私にはないし、そんなことしたくないよ。


「マネージャー、なに、具合悪いの」
 呼び出しから帰ってきたのか、いつの間にか席に座っていた彼が眉を寄せながら話しかけてきた。これまでも何度か呼び出しがあったようだけれど、返事のどれもが「ごめん」とのことだったらしい。今日のお相手とはどうだったのだろう。
「どうして? 全然大丈夫だよ」
「フーン。ならいいけど」

「ほら、」
「な、にこれ……」
「見てわかんないわけ?」
 全くなんで俺が橋渡しなんかしなきゃなんねーんだよ、直接渡す勇気もないくせに。私宛の手紙を放り投げられ、なんとか落とさずに受け取った。あ、ちょっとイライラしてる。面倒くさいよね。差し出された私が言うのもなんだけど、ごめんね。そのまま彼を見つめることは耐えられず、のろのろと便せんに視線を落とした。
 マネージャーモテモテじゃん。清水くんに言われたくはないんだけどな……。仕方ないっしょ、男少ないんだし。それに俺、ほかと比べたらましな部類だから。……自分で言う? 普通。

 ――でも、清水くん本当にかっこいいもんね。

 そりゃあいつも教室でいる時の彼もかっこいいと思うけれど。
 きっとほかの子達は知らない。グラウンドでみんなとプレーする彼。部員としての彼。陰で努力を重ねながらみんなを引っ張るキャプテンとしての彼は、もっとかっこいいのだ。
 だからこそ、「打倒海堂」掲げて仲間とともに夢を追う彼の邪魔をすることはしたくない。

「なにそれ、嫌味?」
 ふいに頭上から言葉が降ってきた。どういう意味、と便せんから視線を移すと少し頬を上気させ、どこかうろたえている彼がいて。そこでようやく、口を滑らせていたことを理解した。
「あれ……口にしてた?」
「そりゃもうしっかりと」
 私は曖昧に微笑んでごまかした。気恥ずかしいけれど、でもこれは私の本心だから。否定はしたくない、けれどこの想いは彼には知られたくない。少なくとも今は、まだ。

 

 

 

開けない箱