※大河さんが別の女の子とお付き合いしている前提の綾→大です。 

 

幸せ 

 

 

 

「そういや最近カットした? なんか前会った時と雰囲気違うっぽいけど」

「あ……うん、この前友達と一緒に行ったの」

「何だよ、どうせならうちに来ればよかったじゃん」

「ごめんごめん、」

 ――嘘。本当はあなたに会うの、避けてたの。

「ふーん、じゃあ今度は俺んとこ来いよな。その友達も連れてさ」

「そう言って、体よく宣伝に使おうとしてない?」

「当たり前だろ。こっちだって商売でやってんだから」

 はいはい、と返事をした私は、自然に笑えていただろうか。

 そういやこの前彼女がさ、するりと話題が変わった。よかった、変に思われてない。そう安心するのと同時に、この両手が耳を塞いでしまわないよう机の下で拳を作った。

 

 美容師だからヘアスタイルにはすぐ気づく。でも、髪の毛だけじゃないんだよ。ネイルだってしてるし、お洋服だってかわいいものを選んだんだよ。

 あなたに会うために、ちょっとだけおしゃれしたつもりだったんだけどな。

 ……なんて、素直に言えたらいいのに。

 

「悪いな、相談乗ってもらって。俺の知ってる女でこういうこと話せんのお前くらいしかいないし」

「何言ってるの。お姉さんがいるじゃない」

「姉貴になんか言えっかよ。おちょくった挙げ句誰もかしこも広めまくるに決まってんじゃん」

 あはは、といつものように笑いながら、心の奥底で静かに涙を流す自分自身を抱きしめた。

 あなたが大切なその子を誰よりも想っていることは私が一番よく知ってる。だから、これでいいんだ。

 あなたにとって私はただの女友達でも、私はそうじゃない。そうじゃないよ。でも、あなたの一番の女友達にはなれてるって自惚れてもいいよね。

 ね、清水くん。